
2020.01.31溶接topics
TIG溶接は、数ある溶接法の中でも、特に初心者が挑戦しやすいと言われている方法です。
しかし、両手を使用して溶接をするということもあり、最初は練習が必要になります。
本記事では、初心者の方でも上達しやすくなるTIG溶接のコツを解説していきます。
目次
TIG溶接を行う際には、片手に溶接棒、もう片手に溶接トーチと呼ばれる道具を持ち、強い光と熱を持つアークを発生させることで、金属を溶接します。
この時、溶接部に酸素が混ざると金属が酸化し、溶接不良などの品質低下に繋がるため、溶接部を空気から保護する為にシールドガスを噴射することも、TIG溶接の特徴です。
そもそも、TIG溶接の「TIG」とは、「タングステン・イナート・ガス」の略称で、タングステンを溶接トーチに取り付けてアークを発生させる電極とし、溶接部を空気から保護する役目のシールドガスとして、イナートガス(不活性ガス)を使うことからこの名前がついています。
ガスを使用すると危険性が高いように感じるかもしれませんが、TIG溶接で主に使用されているアルゴンガスは、空気中にも含まれているガスで、引火する恐れが無く、人体にも被害を及ぼさないので、安心して使用することが出来ます。
溶接を行う際に気になることの1つが、溶接時に発生する騒音です。
しかしこのTIG溶接は音が静かなので、周りを気にせず作業に集中することが出来ます。
溶接と言うと火花が飛び散るイメージですが、TIG溶接ではスパッタ(火花)は出ません。
溶接時の視認性が低い中でも火花に邪魔されずに、溶接部をしっかりと目で確認しながら作業を進めることが出来るので、比較的初心者でも作業しやすいと言えます。
TIG溶接では、不活性ガスをシールドガスとして使い、溶接部に空気が入らないよう保護しているので、強度を高められると共にアーク溶接やガス溶接などの他の溶接法と比較しても美しい仕上がりとなります。
TIG溶接は、鉄やアルミ、ステンレスなど、ほとんどの金属が溶接出来るのでTIG溶接をマスターすれば、様々な場面で応用出来るのも大きなメリットです。
TIG溶接に使う道具には下記のようなものがあります。
次に、基本的なTIG溶接の方法を紹介します。
タングステン電極の先を尖らせてから、5mm程度出すようにして溶接トーチに取り付けます。
溶接トーチのスイッチを入れたら、ガスが流れ出す量を調節します。
溶接する素材の種類や厚みに応じて、TIG溶接機を設定します。
溶接トーチを元となる金属(母体)に対し45°くらいの角度にして、TIG溶接機のスイッチを入れます。
母体が溶け始めると、溶けた金属同士が混ざり合い、溶融池(プール)と呼ばれる溶けだまりが出来るので、その溶融池に溶接棒を差し込みながら溶接を進めて行きます。
基本的な方法はシンプルですが溶接トーチや溶接棒の動かし方、ローリングなど上手く出来るようになるまで時間がかかることも多いです。
そこで、ここからは少しでも早くTIG溶接をマスター出来るように、上達の為のコツを紹介します。
TIG溶接を始めたばかりの頃は、なかなか思った通りの溶接が出来ずに、焦ることが多いと思います。
しかし、子供の頃に最初から箸を上手く使えなかったように、最初からうまく出来る人はいないのです。
これから紹介するコツを踏まえて練習を重ねることで、少しずつ着実に溶接の技術が身についてきますので、焦らず繰り返し練習していきましょう。
溶接を進めていく中では、溶接トーチの角度を最初から最後まで一定に保つようにしてください。
角度が変わってしまうと、手元のブレやタングステン電極と母材の接触に繋がってしまいます。
その為、溶接をしている間は、角度を一定に保てるよう意識しながら、溶接の練習を進めるようにしましょう。
また、角度を一定に保つ為には、後ほど紹介する「溶接時の構え」が関係してきます。
溶接の練習を始める前に、脚長のラインを水性ペンで母材に書いてから、溶接を始めましょう。
この脚長とは、「きゃくちょう」と読み、水平な金属と垂直な金属を溶接するなど、ほぼ直角に交わる金属を溶接する「隅肉溶接」を行う際に、元々の金属が接した部分から溶接ビードの端までの距離のことを指します。
溶接を開始する前にラインを引いておくことで、溶接中の迷走を防ぐことが出来るとともに、脚長をそろえる事で美しい仕上がりに近付くことが出来るのです。
この工程を「封書く」と言います。
この封書く際に油性ペンを使うと、溶け込みが悪くなってしまうことがあるので、水性ペンを使うことをおすすめします。
溶接に慣れていない内は、特に緊張もあって体に力が入りがちです。
しかし、力が入った状態で溶接をすると、ノズルが滑ってタングステンが接触するなど、失敗に繋がりやすくなってしまいます。
肩の力を抜き、やさしく丁寧に溶接を進めるようにしましょう。
タングステン電極を溶接トーチから出しすぎると、母材や溶融池と接触してしまう原因となるので、出しすぎないようにしましょう。
タングステンが母材などに接触すると、溶接部付近に黒いすすが出てしまう上に、タングステンの先端の形状が変わってしまいます。
このタングステンの先端の形状によって、安定したアークを作れるかどうかが大きく左右されるのです。
先端が鉛筆の先のように尖っていれば、先端からまっすぐに安定したアークが出ますが、先端が欠けていると、曲がった方向にアークが出たり、アークが安定せず溶接が困難になったりしてしまいます。
もし、タングステンが接触してしまったら、一度先端を尖らせてから再度溶接を開始するようにしてください。
タングステンと母材とは、2mm程度の距離を保つようにしてください。
タングステンが離れすぎてしまうと、溶接棒が玉状に溶けて落ちてしまうので、タングステンの距離を保つ為にも、ノズルの角度は一定でキープするようにしましょう。
まず、トーチケーブルは利き手と逆の肩にかけ、背中を通して利き手で持つようにします。
この時、腰くらいの高さにトーチケーブルのたるみが来るようにしてください。
たるみの位置が高すぎると溶接時に動きが制限されて無理に力が入ったり、手のブレに繋がったりと作業性が低下してしまいます。
逆に、たるみの位置が低いと、ケーブルの重さが負担になり、手の疲れや腱鞘炎などを引き起こす原因となります。
溶接を始めたばかりの頃は、ノズルが滑って失敗してしまうという事がよく起こります。
実は、この時の失敗の原因のほとんどは、力が入り過ぎていることにあります。
そのため、ノズルがよく滑ってしまうために更に力を入れてしまうと、一向に状況は改善しないのです。
溶接に慣れていないと、緊張して力が入ってしまいがちですが、まずは、肩の力を抜いて、溶接トーチの重さを指で支えるイメージで優しく持ちましょう。
横に並べた金属を溶接する突き合わせ溶接や、パイプの溶接時に用いるローリングは、特に練習とコツが必要になってきます。
まず、溶接したい2つの金属の交わる継ぎ目の両端に、水性ペンでビード幅を決めるラインを引いていきます。
これを行うだけで、ビード幅を綺麗に揃えやすくなります。
次に、溶接する金属の間に溝を作ります。
これを「開先」と言い、突き合わせ溶接を行う際には、必ず作るものです。
突き合わせ溶接は、別名「完全溶け込み溶接」と呼ばれ、開先を熱で溶かした溶接金属を接合したい2つの金属と一体化させることで、接合部を埋め込む方法です。
だからこそ、突き合わせ溶接を行う際には、必ず開先を作る必要があるのです。
この開先には、「V形開先」「レ形開先」「I形開先」など、その開先の形状に合わせていくつか種類があり、「レ形開先」がよく使われているものの1つです。
「K形開先」や「J形開先」など複雑な形状のものもありますが、字の形状を見て分かるようにシンプルな形状のものの方が加工が簡単です。
この開先を作ることで、溶接部の耐力を上げることが出来る上に、視認性の低い溶接時に、位置が分かりやすくなります。
溶接棒は、2つの金属の継ぎ目から、少しずらした位置に置きます。
こうすることで、溶接時に継ぎ目や開先を見やすくなります。
長時間溶接を行う際には、あまりおすすめ出来ませんが、短時間の溶接なら遮光プレートの番号を1つ下げると、明るくなって見やすくなるので作業性が上がります。
ただし、作業が長時間に及ぶ時には、目への負担が大きくなるので注意してください。
以上の点を踏まえながら、頭で考えず、自然と手が動くようになるまで練習を重ねることが、ローリングの一番のコツと言えます。
溶接棒を差し込む位置を間違えてしまうと、溶接している途中で溶接棒が途切れ上手く接合出来ないなどの現象を引き起こしやすくなります。
溶接をスタートし溶融池が出来たら、溶融池の中の進行方向の端に溶接棒を差し込んでください。
この状態で、両手を同時に動かしながら溶接を進めて行きます。
ちなみに、溶接棒の持ち方に関しては、親指と人差し指でつまむように持つ持ち方や、中指と薬指の間に挟み、親指で支える持ち方など様々ですので力が入らず持ちやすい持ち方を選んでください。
インターネット上には多くの溶接動画が出ているので、それらを見るとわかりやすいのですが、溶接を行っている最中に溶接トーチは常に一定の角度を保ちながら進行方向に進めて行くのに対し、溶接棒は細かい動きで進行方向に差し入れながら作業を進めて行きます。
この時、溶接棒はわずか3mm程度の距離を行ったり来たりさせます。
動画で見るとシンプルで簡単なように見えて、もう片方の手とは全く異なる細かい動きをすることは慣れるまでは非常に難しいのです
。このため、この両手の動きが滑らかに出来るようになるまで、まずはアークを発生させない状態で練習を重ねることが必要になります。
ここでも、力を抜いた状態で進めるように意識してください。
ここからは、実際に溶接棒を使って溶接が出来るようになってからの話です。
溶接を開始し溶接棒を差し込んだ時、もし最初だけ溶接棒の溶け込みが悪いと感じることがあったら、溶接棒の先端が酸化している可能性があります。
溶接棒の先端が真っ黒になっていたら、酸化している印です。
溶接棒が酸化した状態だと、実は溶接棒が溶けておらず、溶接欠陥に繋がりかねないので、絶対に使用してはいけません。
この溶接棒の酸化は、前の回の溶接終了時に、溶接棒の先端にシールドガスを十分に当てられていないことが原因です。
その為、溶接終了時には、すぐに溶接棒を離さずに3秒程度シールドガスを当てるようにしてください。
それだけで、酸化を防ぐことが出来ます。
また、もし溶接棒が酸化してしまっていたら、酸化している部分を研磨するか、切断してから使うようにしましょう。