目次
鉄骨工事は、建物などの骨組みを作ることです。
ビルの鉄骨工事には、色々な材質や形状の鉄骨をクレーンなどで吊り上げ、様々な方法を使って組み立てます。
鳶と言われる職人が活躍するのも鉄骨工事です。本記事では、鉄骨工事が完了するまでの様々な流れや手順について解説します。
鉄骨工事って?
鉄骨工事事業とは、鉄でできた部材を用いて建築物の骨組みを作ることです。鉄骨工事事業は、工場と建設現場に分かれています。
工場では、運搬できる程度まで鉄骨を製作する事で、品質管理を徹底します。建設現場では、工事で作った鉄骨をクレーンで持ち上げて、ボルトや溶接で結合して建物の骨組みを組み立てます。
このようなことから、工場での鉄骨の製作と建設現場の組み立ての日程をしっかり管理することが重要です。
鉄骨工事管理責任者の役割と受験資格
鉄骨工事では、鉄骨を製作したり発注したりする際の指示や指導することに加え、鉄骨製品の検査や現場工事の管理を行う鉄骨工事管理責任者がいます。
鉄骨工事管理責任者は、平成11年に制定された民間資格(日本鋼構造協会)となっています。
鉄骨工事管理責任者の資格を受験する為には、設計・工事監理業、建設業に従事していることが大前提です。
更に、建築鉄骨工事についての監督や管理の実務経験が5年以上あることです。
鉄骨工事管理責任者の資格を取得するためには、鉄骨工事管理責任者実行委員会が実施する講習を受けて修了する必要があります。
更に、同委員会が実施する筆記試験に、合格し認定された後に管理責任者として登録が可能です。
鉄骨工事技術指針
一方、鉄骨工事で参考にする鉄骨工事技術指針には、先導的な技術を適用する際の情報や、先進的技術や工法などが書かれています。
工鉄骨工事技術指針・工場製作編と工鉄骨工事技術指針・工事現場施工編の2冊に分かれています。
鉄骨とは
鉄骨とは、ビルなど建設物の骨組みになる鉄材です。
鉄骨は、木と比較して強く、鉄筋コンクリートと比較しても軽いため、大空間構造を作り出せるメリットがあります。
しかし、鉄骨単体では、540℃以上になると脆くなるため、火災で倒壊してしまうケースもあります。
そのため鉄骨の温度が上昇しないように、耐火素材で包む必要があります
。
鉄骨に使われている鋼材は、グレードなどの違いから、以下に分類されます。
- SS(一般構造用圧延鋼材)
- SM(溶接構造用圧延鋼材)
- STK(一般構造用炭素鋼管)
- STKR(一般構造用角形鋼管)
- BCR(冷間ロール成形コラム)
- BCP(冷間プレス成形コラム)
一方鉄骨は、断面形状の違いから大きく分けて以下に分類されます。
- H形鋼
- I形鋼
- 山形鋼
- 溝形鋼
- 角型鋼管
- 円形鋼管
鉄骨には、厚さが6mm以下の鉄材を使っている軽量鉄骨と、厚さが6mmの鉄材を使っている重量鉄骨とがあり、熱間圧延加工によって製造します。
軽量鉄骨はブレース構造、重量鉄骨はラーメン構造、トラス構造に使われることがあります。
グレード:SS(一般構造用圧延鋼材)
SS(一般構造用圧延鋼材)は、鋼材の中でも広く用いられており、中でも、SS400は代表的な規格となっています。
SS材は、炭素の含有量が少ないため、溶接にはあまり適していません。
グレード:SM(溶接構造用圧延鋼材)
SM(溶接構造用圧延鋼材)は、SS材と比較して、溶接性能を向上させています。
溶接性能等級があり、A、B、Cといったアルファベットで表示されています。
H形鋼できた柱(SRC造)や梁(鉄骨ラーメン構造)などに使われることがあります。
SS材と比較して、厳しい化学成分の規定が採用されているため溶接に適している一方で、単価は高くなってしまいます。
グレード:STK(一般構造用炭素鋼管)
STK(一般構造用炭素鋼管)は、SS材に似た材質を採用しています。建築物以外に、幅広い用途がある炭素鋼管となっています。
グレード:STKR(一般構造用角形鋼管)
STKR(一般構造用角形鋼管)の工程や品質は、JISで規定されています。STKR(ロール成形)に溶融亜鉛メッキを施すと割れる可能性があります。
グレード:BCR(冷間ロール成形コラム)・BCP(冷間プレス成形コラム)
BCR(冷間ロール成形コラム)・BCP(冷間プレス成形コラム)は、柱(ラーメン構造)に使用されることがあります。熱延鋼板を使っており、STKR材と比較して優れた塑性変形能力を発揮する場合がありますが、単価は高くなります。
グレード:SN(建築構造用圧延鋼材)
SN(建築構造用圧延鋼材)は、溶接がしやすくねばり強い性質があるため、ダイヤフラム(ラーメン構造)など使われます。
許容差(厚さ)の下限値が小さいので、断面寸法を確保できます。
断面形状:H形鋼
H形鋼の断面形状は、アルファベットのHに似ています。広いフランジに加え、フランジの内外面が平行になっています。
高張力以外にも耐候性や耐食性、耐海水性などに優れていて、H形鋼は建築をはじめ、船舶、岸壁、建築物、高速道路などに使われています。
断面形状:I形鋼
I形鋼の断面形状は、アルファベットのIに似ています。
H形鋼と比較して、板厚があり、重量も重いです。建築をはじめ、橋、機械、車などに使われています。
断面形状:山形鋼
山形鋼の断面形状は、アルファベットのⅬに似ており、建物の他、船舶、機械などに使用されています。
山形鋼には小型山形鋼(辺の長さ:40mm以下)、軽山形鋼、球山形鋼といった種類があります。
球山形鋼の上端は丸みを帯び、肉厚になっているため、船舶や鉄道の台車に使われることが多いです。
山形鋼の材質は、用途に合わせて、普通鋼や高張力鋼を使い分けています。
断面形状:溝形鋼
チャンネルとも呼ばれる溝形鋼の断面形状は、カタカナのコの字に似ています。
中にはリップ溝形鋼や軽溝形鋼といった軽量形鋼もあります。溝形鋼は、組み合わせることで柱や梁として使用することが可能で、建築、機械など幅広い用途があります。
断面形状:角型鋼管、角型鋼管
角型鋼管の断面形状は、箱形になっているため、柱材としてよく用いられます。
角型鋼管は横座屈や局部座屈に対して強いです。
円形鋼管の断面は円形になっています。
一定の断面性能があるため、柱材に使われることが多いです。
ブレース構造
ブレースとは、いわゆる筋交いのことです。
ブレースを建物の柱と柱の隙間へ対角線上に入れることで補強します。
ブレース構造では、ブレースを使った面を取り付けて強度を保持することで、地震や風以外にも建物に加わる力に耐えるようになります。
ブレース構造は、ラーメン構造と比較すると、部材(柱など)をコンパクトにできる上広い床面積を確保することが可能になります。
住宅の改築で窓を設ける際にも、外壁にブレースを入れることがあります。
一方階段の位置を変える改築の場合、水平ブレースが配置されていることで移動できないといったデメリットがあります。
ラーメン構造
ラーメン構造のラーメンは食べるラーメンと異なりドイツ語で額縁を示す言葉です。
絵画や写真に使う額縁は太い枠を縦と横に使っているイメージがあります。
建物も額縁と似ており、縦を支える柱と横を支える梁で構成されています。
ラーメン構造には、柱と梁の結合する部分に特徴があり、剛接合が使われています。
剛接合では柱と梁をがっちり結合します。
剛接合ではボルトやカシメ、溶接などを駆使して鉄骨などをつなぎ合わせます。
剛接合の利点は、優れた耐震力を発揮できるため、筋交いが必要ないことです。
ラーメン構造は、柱と梁で構成されているので開放的な空間を創り出せる半面、費用が高価です。
剛接合に対して柱と梁の結合部がゆるいピン接合があります。
ピン接合を使う場合は筋交いを入れる事で、建物の剛性を高めています。
ピン接合は安価ですが、筋交いを入れなくてならない為、開放感がある空間を創り出すことは難しいと言われています。
ただ、筋交いを使ったブレース構造は、古いマンションに耐震化という目的であれば有効です。
ブレース構造は工期が長かったり、騒音が発生したりと大変ですが、地震に対しては強くなります。
地震が多い日本にとっては、古いマンションの耐震化は重要です。
トラス構造
トラス構造は、3角形を単位にした構造骨組みのことで、各部はピン結合を採用しています。
トラス構造は、橋梁、ドーム、屋根などに使われていることがあります。ト
ラス構造は、部材にかかる負担か少ない上、高い安定性を誇ります。
一方、トラス構造は複雑なため、高価です。
鉄骨工事の種類
鉄骨工事の種類には、以下2点です。詳しく解説します。
建て逃げ方式
建て逃げ方式では、はじめ敷地の奥に配置した移動クレーンを使って鉄骨を組み立てます。
鉄骨の組み立てが進むと、移動クレーンを敷地の手前に移動します。
移動式クレーンには、クローラークレーンをはじめ、トラック式、油圧伸縮方式、ラフタークレーン、タワー式クローラなどがあります。
建物を建設しながら、後ろに逃げていくため建て逃げ方式と言われています。
水平積み上げ方式
水平積み上げ方式は、タワークレーンを使って下から上の階へ、鉄骨の節ごとに積み立てていきます。
水平積み上げ方式は、タワーマンションなど高層階まである建物によく使われる手法です。
タワークレーンを使って工事を行うため、工事の作業場所が高くなることに対応して、クレーンも高くすることが可能となっています。
工事が完了まで同じクレーンを使えることと移動する必要ないメリットがあります。
水平積み上げ方式には、マストクライミング方式とフロアクライミング方式があります。
マストクライミング方式は、マスト(タワークレーンの支柱)を継ぎ足すことで、タワークレーンを高し、工事を進めます。
工事の完了後、マストを切り外して解体作業を行います。
フロアクライミング方式は、支柱が短いクレーンを使って行う工事です。
支柱ごとクレーンが上の階に上がっていきます。
この方式では鉄骨が組まれるとすぐに下の階の内装工事がはじめられる為、効率よく工事が進められます。
鉄骨工事における鉄骨工事業の流れ/手順
建物の鉄骨工事事業が終えるまでには、以下の手順ですすみます。
- 着工
- 杭打ち
- 山留め・掘削
- 躯体工事
- 揚重機の設置
- 鉄骨工事
着工
着工では、色々な作業やイベントが実施されます。
例えば、建設敷地に仮設の工事事務所を建設します。
工事を行う敷地を仮囲いで囲って工事看板を設置し、電源や給排水も用意します。
また、地鎮祭を実施し、安全や守護を祈願します。仮囲いには、防音や防塵の効果のある塀などを使用し、工事の現場と外部を隔離します。
最近では透明な素材を使った仮囲いや絵やデザインを施したものも増えてきています。
仮囲いには、建設業の許可票の他に、確認済証、労災保険関係成立票の看板を配置します。
道路占用許可証や鉄骨製作工場名表示、施工体系図などを配置する場合もあります。
水盛り・遣り方では、基準の高さや基準の通り芯を、木材の杭をはじめ、横板、地縄、水糸などを使い決定します。
いすか切りは、杭(頭)は鋭角にしています。
トランシット測量では、トランシットを使い位置と角度を測量します。
レベル測量では、水平をレベルで計測します。
杭打ち
建物を支える杭を打つことを杭打ちといいます。
杭打ち用オーガマシンなど大きな重機によって杭は支持地盤まで打ち込みます。
杭打ちには、場所打ち杭と既製杭といった方法があり、建物の重さや地盤の特性などを考慮して決定します。
場所打ち杭は、コンクリートの杭を造成します。
ケーシングといわれる鋼管を設置してから、安定液を注入しつつ、支持地盤に達するまで掘削します。
スライムといわれる泥を取り除き、鉄筋カゴを取り付け、コンクリートを流し込みます。
後日、ケーシングを除去してから、土砂を入れて完成です。
既製杭では、工場で完成させたコンクリートなど杭を、穴を掘って設置します。
まずオーガーといわれるキリを使い、支持地盤に達するまで掘削します。
セメントミルクを流し込み、杭を挿入した後に杭(先端)を支持地盤に達するまで圧入します。
杭を固定するために、固定液を流し込みます。
山留め・掘削
掘削工事は、地盤を掘るので根伐りともいいます。
敷地によっては、近くの地盤に影響を及ぼさないように山留めを実施します。
例えば、山留め壁などを切梁で突っ張って崩壊を防止する水平切梁工法があります。
この他にオープンカット工法やアースアンカー工法等といった掘削の工法があります。
山留め工事に用いる山留め壁には、地盤の状態や深さなど考慮して使い分ける必要があり、親杭横矢板以外にシートパイル、ソイルセメント柱列壁、地中連続壁があります。
親杭横矢板は、親杭(H形鋼)を打ち込んだ後に掘削し、矢板を並べて、土を食い止めます。
親杭横矢板は工期とコスト面で優れています。
シートパイルは、双方がかみ合った鋼製の板を打ち込むことで土などを食い止めます。
止水性を維持する必要があり、ジョイントの施工管理を行います。
ソイルセメント柱列壁は、芯材をH形鋼に使いセメントミルク柱を打設することで、土などをせき止めます。
地中連続壁は、まず地下外壁を作り、山留め壁にする方法です。大きな規模な上、深い地下の場合に使われます。
躯体工事
躯体工事には、基礎部分と地下躯体の工事があります。
地下の工事では、地下水など水を制御することが重要です。
地下水の浸透を防止するためには、二重壁(地下外壁)や地下ピットにすることがあります。
また、止水板付きセパレータや止水板を使い防水します。
地下躯体の施工は、配置した山留め壁を切梁で支えた後に掘削します。
基礎躯体(深い部分)から上方へと躯体を構築します。
この他に、逆打ち工法があり、掘削と躯体構築を交互に下へ進行していきます。
工期が短縮できるメリットがあります。
躯体工事で行われるコンクリートの打設にはいくつかの作業があります。
- コンクリート流量調整の指示や連絡。
- コンクリートを流すホースの操作。
- コンクリートを電動バイブレーターで充填。
- コンクリートの表面を均一して、仕上げる作業。
- コンクリートの荷卸しなどの作業。
揚重機の設置
ビルの建設には、鉄骨など重量物を吊り上げるために揚重機が必要です。
吊り上げるものの重量や種類、敷地の条件、作業の環境などを考慮して、揚重機を決定します。
移動式クレーンやタワークレーンといった揚重機があります。
移動式クレーンは、大きくラフテレーンクレーンとクローラークレーンに分かれます。
ラフテレーンクレーンは、小回りが効き、搭載されているエンジンによって一般道も走れます。
また旋回したり、吊り上げたりすることもでき走行や操縦を1つの運転台で実施します。
しかし、走行速度が増すと、危険が高くなるため、最高速度が50km/h程度となっているラフテレーンクレーンが殆どです。
クローラークレーンは、接地面積が広いため、軟弱な地盤や未舗装の路盤に最適です。
しかし、走行速度が遅く、ナンバーが取得できないので、公道での自走は不可能です。
アーム部分は解体してトレーラー等に積載してから現場を移動しなくてはならないので手間はかかります。
一方、クレーンで上げられないものや作業員のために工事用エレベーターを配置しています。
鉄骨工事
鉄骨工事では、鉄骨を組み立てて、建物の骨組みを完成します。
紹介したクレーンを使って鉄骨を吊り上げて移動させ、高所作業を行う鳶が鉄骨を組み立てます。
敷地など色々な条件によっては建方の手法を変え、色々な作業の積み重で鉄骨工事は完成します。
例えば、柱の建込みでは、アンカー(基礎)をボルトで柱に取り付けます。
モルタルなどでベースモルタルを作成し、その上に柱脚をのせた後に、ルタル(無収縮)を隙間に充填します。
一方、建ち直しでは、ワイヤーロープとジャッキで引っ張り、鉄骨柱を垂直にします。
更に、専用治具を使って調整することもあります。
トランシットや三次元測量機器を使って鉄骨の位置を計測することもあります。
ボルト締めや溶接によって鉄骨を組み立てられ、鉄骨を組み立てる足場を吊足場と呼ばれています。
まとめ
鉄骨工事では、クレーンなど色々な機械を使いますが、鳶といわれる職人さんの存在は非常に重要です。
鉄骨工事では、常に鳶が作業を確認しながら、慎重に鉄骨を組み立ていきます。
どんなに機械化が進んでも、人の目で確認して安全に作業することは重要です。
鉄骨工事が完了するまでは、様々な工事を行わなくてはなりません。
鉄骨工事が終わっても、外壁や屋根、内装など更に色々な工事を経て、建物は完成します。
この記事が鉄骨工事について興味がある人にとってお役に立てば幸いです。