溶接topics
NEWS

お知らせ

M&Aニュース

2020.01.06 溶接topics

溶接棒(被覆アーク溶接棒)の選び方を解説!人気メーカー の溶接棒も紹介

目次
溶接棒(被覆アーク溶接棒)と一言に言っても、その種類は様々です。 実際に、どの溶接棒を選んだら良いか分からず、困ってしまった人も多いのではないでしょうか? 本記事では、主な溶接棒の種類と、それぞれのシチュエーションに適した溶接棒の選定の仕方について解説します。

溶接棒とは

そもそも溶接とは2つ以上の部材を接合させることを指しますが、大きく分けると以下3種類に分類されます。
  1. 融接:母材(溶接を行う時、元となる材質)を加熱することで接合
  2. 圧接:母材に圧をかけ、圧着することで接合
  3. ろう接:母材を溶かすのではなく、接合したい材質同士の間に接着剤のような役割をする「ろう材」を流すことで接合
  今回解説する「被覆アーク溶接棒」は、「融接」の一種である「被覆アーク溶接法」で使用される工具です。 構造としては、「心線」と呼ばれる金属の棒の上に、被覆材(フラックス)を塗り固めて作られています。  

溶接棒の用途

溶接棒は、被覆アーク溶接法を行う際に、金属を溶接する熱を作り出してくれる電気現象を引き起こす為の電極の1つとして用いられます。 溶接棒にプラスの電圧、元となる母材にマイナスの電圧を流すと、空気中に強い光と熱を持つ電流が発生します。 これが、被覆アーク溶接法のアークの意味となるアーク放電という電気現象です。 ただし、この時、溶接棒の心材と母材は同じ材質の物を選ぶ必要があるので、注意して選ぶようにしましょう。   被覆アーク溶接法では、アーク放電で発生するアークと呼ばれる光の熱を利用して、金属を溶かし接合します。 このため、この方法を用いる際には被覆アーク溶接棒は欠かせない工具となります。 被覆アーク溶接法は、溶接棒と溶接機の組み合わせがあれば可能で、溶接機自体は比較的安価なため、初心者でも取り入れやすく、現在最も多く用いられている溶接法とも言われています。   ところで、先ほど、被覆アーク溶接棒には、心材の上に被覆材(フラックス)が塗り固められていると説明しました。 アーク放電を発生させるには、母材と心材さえあれば良いのではないかと思うかもしれませんが、この被覆材には、仕上がりや品質に影響する重要な役割があります。   被覆アーク溶接法を行っている時、被覆材が溶融することで、アークの安定性を良くしたり、被覆材から発生したガスやスラグと呼ばれる非金属物質が、母材や心材の溶融部分を覆って保護することで、酸素や窒素などの大気からの侵入を防いで溶接金属の品質を高めたり、様々な姿勢での溶接を可能にすることで作業性を高めるなどの効果があります。 つまり、被覆材があることによって、溶接後の金属の精度と作業性の両方を高めることが出来るのです。  

溶接棒の種類

溶接棒の種類は、被覆材の種類によって、大きく分けて4つに分類されるので、分類ごとの特徴について解説します。  

イルミナイト系

イルミナイトとは、チタンと鉄の酸化物を結合した鉱物のことです。 被覆材に、このイルミナイトが約30%配合されている溶接棒をイルミナイト系と言います。   溶け込みの良さに加え他の種類の溶接棒と比べて、アークが強く安定しているので、溶接性と作業性のバランスが良いことが特徴です。 また、溶接した金属の機械的性質も優れています。 ただし水素が多く含まれているので、厚板や拘束の大きい構造物よりも薄板の溶接向きと言えます。   イルミナイト系は、日本で独自に開発された溶接棒で、取り扱いがしやすい事も広く使用されている理由の1つです。 技量試験やコンクールなどでもよく使用されています。   溶接事業を広く展開する、人気メーカー「神戸製鋼」では、B-10、B-14、B-17などのBシリーズ、「日鉄住金」では、G-200、G-300などのGシリーズが、イルミナイト系の溶接棒です。  

ライムチタニヤ系

被覆材に、高酸化チタン約30%とライム(炭酸石灰)などの塩基性の物質を約20%配合している溶接棒のことをライムチタニヤ系と言います。 アークが穏やかで、溶接部に発生し溶接した金属を覆うスラグの流動性が良く、広い範囲で使用出来ることがライムチタニヤ系の特徴です。 また、スラグの焼き付きが少なく、スラグの除去も簡単に出来るので、溶接後の処理を少なく抑えながらも、溶接痕(ビード)は綺麗に仕上げることが出来る点が大きなメリットと言えます。 細かい穴の開いた構造になっているので、溶接する時の姿勢としては、特に溶接棒の先端が壁と垂直で天井方向に進んでいく「立向上進」に適しています。   イルミナイト系よりも更に取り扱いはしやすいですが、溶け込みが浅く、品質確認の為に放射線透過試験を要求される場合があるので、重要な箇所への使用は注意が必要です。 他の種類の溶接棒よりも吸湿しにくいので、通常の保管状態であれば再乾燥の工程を省くことが出来る点も、ライムチタニヤ系の特徴の1つです。   神戸製鋼では、Z-44、日鉄住金では、NS-03TやNS-03Hiがライムチタニヤ系の溶接棒にあたります。  

低水素系

被覆材に、炭酸カルシウムやフッ化カルシウムを多く配合している溶接棒のことを低水素系と言います。 溶接金属の水素量を最小限に抑え、脱酸作用から酸素量も少なく出来る為、溶接不良の発生を抑えられることが特徴です。 ただし、アークがやや不安定でアーク切れも発生しやすく溶接を始めた時や継ぎ目部分で、発生したガスが溶接金属内に混ざるブローホールを起こしやすいので、他の種類の溶接棒よりも作業の難易度が上がります。 しかし、溶接した金属の機械的性質が優れていて、様々な姿勢での溶接が可能なので、厚板や拘束の大きな構造物などの重要部材の溶接に適しています。   低水素系の溶接棒を使用する際の注意点としては、湿気に弱いので床面や壁からは10㎝以上離し、湿度の低い通風性の良い所で保管しなければいけません。 さらに使用前には300~400℃の高温で、30~60分乾燥させる必要があります。   神戸製鋼では、LB-26やLB-47、LB-52などのLBシリーズ、日鉄住金では、S-16が低水素系の溶接棒です。  

高酸化チタン系

被覆材に、高酸化チタンを約35%配合している溶接棒のことを高酸化チタン系と言います。 アークが安定しているので品質に悪影響を与え、塗装欠陥などの原因となるスパッタが少ないことが特徴です。 溶け込みが浅く、溶接痕(ビード)は光沢感のある美しい仕上がりになるので、見た目を重視したい外装などの溶接に向いています。   逆に、溶接した金属の機械的性質はやや劣るので、強度が必要な主要部分などの溶接には適しません。 神戸製鋼では、B-33やRB-26、日鉄住金では、S-13Zが高酸化チタン系の溶接棒です。   ここまで、被覆材で分類される溶接棒の主な種類と特徴が分かった所で、次に、具体的な溶接棒の選定の仕方を見ていきましょう。  

溶接棒の選び方

溶接棒を選定する際には、先ほど説明した被覆材のタイプを用途や状況に合わせて選ぶことに加え、注意すべきポイントが2つあります。   まず、1つ目のポイントは、溶接する金属(母材)の材質や厚さ(板厚)と溶接棒の種類を合わせること です。 「被覆アーク溶接法」では、アーク熱により溶接棒と母材が溶け、それらが混ざり合って溶接金属を作り出します。 その為、母材が軟鋼なら軟鋼用棒、ステンレス鋼ならステンレス用棒のように、母材に見合った材質(心材)の溶接棒を選ばなければいけません。   そして、もう1つのポイントは、溶接機の電流量と母材の板厚に合った太さの溶接棒を選ぶことです。 前提として、溶接機のパワーが小さいと太い溶接棒が使えない場合があります。 また、細い溶接棒は、必要に応じて、何度も溶接を行い、溶接部を盛らなければいけません。 しかし、逆に太い溶接棒を使用する場合、溶接棒を溶かす為にアーク熱を加える時間が長くなると母材自体が溶け、穴が開いてしまうなどの危険性があります。 その為溶接機の電流量と母材の板厚を考慮して、溶接棒を選ぶ必要があるのです。  

溶接する金属の種類で決める

前項で説明した1つ目のポイントである溶接する金属(母材)の種類による分類から説明していきます。  

軟鋼低電圧用溶接棒

名前の通り、低電圧の溶接機でも使用出来る溶接棒です。 この低電圧用溶接棒を使用する時は、通常の電圧の溶接機ではなく、通常の溶接機よりも出力電圧が低く入力電圧も小さい溶接機を使う必要があります。 ただし、家庭用の100V電源でも使用することが出来るので、DIYなどの趣味で使いたい人にも人気です。主に薄い鉄板の溶接に使用され、様々な姿勢で使えるので、作業性も高い点が特徴です。  

一般軟鋼用溶接棒

鉄の薄板から厚板まで、幅広い母材の溶接に使用出来ることが特徴です 。溶接痕(ビード)の伸びの良さに加え、一度溶接をした後、再度溶接を始めた時にも作業がしやすく様々な姿勢で使用出来るので、非常に作業性が高く軟鋼用の溶接棒としては万能と言えます。  

ステンレス用溶接棒

ステンレスを溶接する際に使用する溶接棒です。 ステンレス同士を溶接する場合と、ステンレスと他の金属を溶接する場合とで、使用する溶接棒が異なります。  

鋳物用溶接棒

鉄を使った鋳物(鋳鉄)など、鋳物の補修や溶接をする際に使用する溶接棒です。 溶接をする時の姿勢は下向き(溶接棒の先端が板を向いている基本的な姿勢)のみなので、他の溶接棒と比べると作業性が低くなります。  

溶接棒の太さで決める

次に、2つ目のポイントである溶接棒の太さについて、説明します。 一般的に、溶接棒の太さは、母材の板厚の半分が目安と言われています。 しかし、溶接棒の太さは、JIS規格で決められたサイズしか作られていないので、その既定のサイズの中から適した太さを選びます。 また、溶接棒が太くなるほど、大きな電圧を流さなければいけないので、太さに応じて溶接機の電流値を変える必要があり、溶接棒の太さと電流値が合っていないと溶け込みにくかったり、母材に穴が開いてしまったりといった失敗に繋がります。 さらに、電流値は下向き姿勢を基準とすると、立向き姿勢(溶接棒の先端が壁と垂直)の場合は、下向き姿勢の約20~30%減、上向き姿勢(要悦棒の先端が上を向く)の場合には、下向き姿勢の約10~20%減と、溶接する際の姿勢によって、適した電流値が変化することを覚えておきましょう。   最後に、状況や目的に応じて適した溶接棒を選定したら、そこで安心してはいけません。 なぜなら、被覆アーク溶接棒は、基本的に被覆材が吸湿しやすい性質がある為、保管管理を徹底し使用前に乾燥しないと、溶接品質にも影響してしまうからです。   実際に、溶接棒が吸湿した状態で使用すると、アークが不安定になったり、溶接不良を引き起こしたりと、溶接金属の精度を下げる原因にもなってしまいます。 その為、使用する前に、溶接棒をしっかり乾燥させるという工程が必要なのですが、特に吸湿しやすい低水素系と低水素系以外では取り扱いが変わってきます。   再乾燥をさせる際、低水素系の場合は300~400℃で30~60分、低水素系以外の場合は、70~100℃で30~60分乾燥させなければいけません。 また、使用前だけでなく保管する際にも、低水素系は100~150℃、低水素系以外は基本的には常温保管可能ですが、作業場の湿度が高い場合は70~100℃の環境で保管し、品質の低下を防ぎましょう。

まとめ

  • 溶接棒は「被覆アーク溶接」には欠かせない工具で、心材の上に被覆材が塗り固められた構造になっている。
  • 被覆材の種類によって、「イルミナイト系」「ライムチタニヤ系」「低水素系」「高酸化チタン系」の4つの種類に分類され、それぞれ特徴が異なるので、目的や状況に応じて選定する必要がある。
  • 溶接棒を選ぶ際に注目すべき2つのポイントは、【溶接する金属(母材)の材質や厚さ(板厚)と溶接棒の種類を合わせること 】と【溶接機の電流量と母材の板厚に合った太さの溶接棒を選ぶこと】。
  • 母材の材質と同じ心材の溶接棒を選ばなければいけない。
  • 電流の強さは、溶接棒と母材の板厚に応じて調整する。
  • 溶接棒は被覆材が吸湿しやすく、溶接の品質にも影響するので、使用前の乾燥と徹底した管理が重要。
  • 特に低水素系の溶接棒は、他の種類の溶接棒と比べても吸湿しやすいので、取り扱いに注意が必要とされる。
NEWEST POSTS
ニュース一覧へ ≫

M&Aに関するお問い合せはこちらから