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私たちの身近なところに溢れている『溶接』。自動車や航空機、公園のすべり台や建築物などあらゆるものに溶接が使用されています。
そんな溶接ですが、実はとても長い歴史があります。今回は『溶接の歴史』についてまとめました!
世界の溶接のはじまり
技術が誕生したのは古代エジプトで、今から5000年以上前の紀元前3000年には存在していたといわれています。当時は、金属同士をハンマーでたたけば接合すると認知されており、金属を接合する技術として以下の三種類が用いられていました。
鍛接
接合部を半溶融状態まで加熱し、これに圧力を加えて二片を接着させる方法
リベット接合
接合部に穴を開け、リベット(鋲)を差し込み、端部をハンマーなどでつぶして固定し、接合させる方法
ろう付け
「ろう」と呼ばれる低温度で溶ける合金を接着剤のように使い、金属同士を接合させる方法
これは、多くの方がイメージするような火花を散らしてつなげる溶接とは異なった種類の溶接方法です。
実際に溶接技術が分かる歴史的遺物が残されています。例えば、メソポタミア地方(現在のイラク国内やシリアの一部)で発見された雄鹿の頭部をあしらった銅製の飾り板(レリーフ)の枝角の接合にはろう付けが用いられた痕が見つかっています。また、紀元前1400年頃に造られた古代エジプト王ツタンカーメンの黄金の棺の中から、鍛接したとみられる鉄製の装飾品が発見されています。
19世紀の溶接の技術革新
古くから存在した溶接ですが、19世紀の産業革命が起こるまでは大きな技術革新はありませんでした。しかし、19世紀初期に金属を溶融させて接合する技術が誕生します。1807年にイギリスのデイビーがボルタ電池を使い、初めて2本の電極間で瞬間的に光を飛ばし、アークを発光する実験を行いました。この時の光が弓形に曲がっていたのでアーク(ARC)と名付けたとされています。しかし、当初アークは街灯といった実用的なアーク燈の開発が注目されており、溶接への応用にはほとんど関心を持たれていませんでした。
1880年頃、フランスのドメリスタンが蓄電池の鉛板の接合に炭素アーク熱を利用しはじめたことから、その弟子ドベナールはいろいろと工夫と改善を加え、実用的アーク溶接法を開発し特許を取得しました。その後、アメリカと旧ソ連がそれぞれ現在の被覆アーク溶接のもととなる『金属アーク溶接法』を開発し、以来溶接技術は急速に工業製品に利用されることになりました。
日本の溶接の歴史
鉄の接合技術が日本にはじめて伝わってきたのは、紀元前3世紀頃。中国、韓国経由で鉄器とともに伝わったとされており、最初の溶接は弥生時代の銅鐸の補修に使用されています。また、8世紀の奈良大仏はブロック単位で鋳造したものをろう付け的手法で組み立てて建造されました。以降武士の誕生が刀剣や鉄砲などの武器の需要を生み、それがさらに鉄の加工技術の向上の発達をもたらしました。日本刀はその代表例です。また、鍛接や鋳掛けと呼ばれる溶接技法は、壊れた鉄製品の修復に大いに役立つものとして、日本各地に広まっていきました。
1909年に発行された日本最初の溶接技術書と思われる『金属合金及其加工法』では『鍛接』(WELDING OF METALS)と書かれており、まだ『溶接』という名称は出てきていません。しかし、20世紀前半にかけて技術が進化します。日本の溶接技術が大きく発達した要因は『造船』です。1914年、三菱長崎造船所がスウェーデンから被覆アーク溶接法を導入し艦船の補修に使用しました。また、1920年に造船した三菱長崎造船所の『諏訪丸』は日本で初めて全溶接が施されました。そして、1925年には被覆アーク溶接棒の国産化が始まり、 艦船を中心に圧力容器や橋梁にも拡大していきます。その後1960年頃までに、TIG溶接、MIG溶接、MAG溶接(含炭酸ガス溶接)などのガスシールドアーク溶接が導入されました。
20世紀の溶接技術
近代以降、新たな技法として多種多様な溶接技術が考案されました。
抵抗溶接
この技術の基本原理は、溶接したい金属を電極で挟み込んで加圧し、電極間に電流を流したときに発熱する「抵抗発熱」によって金属を溶かして接合します。この方法を応用した溶接法に、スポット溶接やシーム溶接があります。日本には1905年に機械が持ち込まれたという記録があります。自動車のボディパネルや鉄道線路、パイプなどに使用されている溶接です。
ガス溶接
20世紀初めにフランスとドイツでほぼ同時に空気液化による工業的な酸素製造法が開発され、酸素消費量の高いガス溶接が次第に欧米で普及し始めます。1909年になると、この方法は日本にも持ち込まれます。
半自動溶接
溶接材料として被覆アーク溶接棒の代わりにワイヤーを使用するもので、トーチで加熱して溶かすワイヤーが自動的に供給される半自動溶接機を使います。半自動溶接は1920年から1930年頃、当時溶接自動化に対する要望が高まっていたアメリカで開発されました。
電子ビーム溶接
真空管やブラウン管内で電子が放出される原理を利用した溶接法です。1948年に開発され、 原子力産業や航空機産業、自動車産業の分野で実用化されました。超微細な溶接まで幅広い母材に対応しており、船の側外板、架橋や貯槽タンクから航空部品や電子部品などに使用されています。
レーザ溶接
1960年に開発された溶接法で、医療・美容・情報通信・自動車・造船・航空宇宙・エネルギー・産業機械など、精密機器を中心としたさまざまな分野で用いられています。人工的に作り出された光を熱源として、集光した光を金属の対象物に当て、溶融・凝固させることによって金属同士を接合させる溶接方法です。非接触で溶接することが可能で、通常の光とは異なるレーザーを使うため、小さく細かい鋼材やステンレス鋼の溶接も可能です。※一般的には「レーザー溶接」と呼ばれていますが、JIS規格では「レーザ溶接」と定められています。
これらの溶接技術の発明により、材料や構造に応じて適切な溶接法を選択することができるようになりました。
現代の最新溶接技術
現在溶接ロボットは、少子化による人手不足やコスト削減、生産性向上の点から、需要が拡大しています。日本では現在約35万台のロボットが稼動中で、世界のロボット溶接市場は、2021年に58億ドルとなっています。今までは、複雑で難易度の高い溶接は人間が仕上げる他ありませんでした。しかし、最新のロボット溶接技術は進歩し、日立製作所にて溶接熟練者の高度なノウハウをデジタル化してロボットに搭載する自動化技術が開発されたり、鹿島建設が汎用可搬型の溶接ロボットを本格導入したりしています。
まとめ
いかがでしたか?溶接の歴史は古く、日本で主要な文明が起こる前にはすでに海外で鉄の接合技術の基本的な手法が誕生していたのです。溶接技術が紀元前から採用されていることは驚きですね。このように溶接の歴史を見てみると、溶接は改良や改善が積み重なって発展し、現在の溶接技術に繋がっていることが分かります。溶接は現代において重要な工業技術の一つであり、あらゆる産業分野で大きな役割を果たしています。今後も影山鉄工所は溶接技術を駆使し、産業の発展に貢献していきます。
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