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2025年の大阪・関西万博には、世界中から多彩なパビリオンが出展されます。ニュースなどでは各国の展示内容が取り上げられることが多いですが、実際に会場を訪れた弊社社員が「構造的に非常に面白い」と評価したパビリオンがあります。 建築やものづくりに関心のある方に注目していただきたいのが、「鉄骨構造」を活かした建築的に魅力のあるパビリオンです。 本記事では、「西陣織パビリオン(飯田グループホールディングス / 大阪公立大学)」、「PASONA NATUREVERSE(パソナグループ)」、そして「ハンガリーパビリオン(ハンガリー政府)」の3つに焦点を当て、構造面からその魅力を紹介します。
西陣織パビリオン
西陣織パビリオンとは?
西陣織パビリオンは、飯田グループホールディングス株式会社と大阪公立大学の共同出展による文化発信パビリオンです。「世界最大の西陣織で包まれた建物」「世界最大の扇子形の屋根」として、ギネス世界記録にも認定されています。 建物は地下1階・地上2階建てで、高さは約12m。外装に使用されている西陣織の総面積は約3,500㎡に及び、その規模と美しさで注目を集めています。
伝統と革新が融合した建築
このパビリオンは、鉄骨フレームをらせん状に組み、外装に西陣織を使用することで、伝統と最先端技術を融合した建築として完成しました。 設計モチーフには「メビウスの輪」が使われており、裏と表のない連続した形状が「文化の継承に終わりがないこと」や「過去から未来へつながる時間軸」を象徴しています。この「サステナブル・メビウス」というコンセプトは、持続可能性を建築の形で体現しています。
パビリオンの魅力を支える鉄骨構造
西陣織パビリオンを支える骨組みには、鉄骨構造が用いられています。鉄骨は「建物の骨」ともいえる存在でありながら、この建物ではその構造の美しさも意匠として活かされています。特に、約3,500㎡の西陣織パネルを支える3次元曲面の鉄骨フレームは、織物の曲線や立体感を引き立てています。また、メインアーチの曲率は一律ではなく、多様な曲率の鉄骨を組み合わせています。 この複雑な形状を可能にしたのは、設計者である建築家・高松伸さん(高松伸建築設計事務所)です。京都大学建築学科の元教授でもある彼は、木造や鉄筋コンクリートでは実現しづらいしなやかさを、鉄骨で表現しました。 鉄骨は加工の自由度が高く、曲線的な構造や立体的なねじれを表現するのに最適です。鉄骨のフレームは、現場に持ち込む前に一度別の場所で仮組みされ、組み立て手順や施工精度を検証。その結果を踏まえて改良が施されたうえで搬入され、本組みに至ったという工程にも、綿密な計画と施工力の高さがうかがえます。 さらに、表面に見える鉄骨も魅せる設計として塗装や溶接処理にこだわり、意匠の一部として活用されています。 このように、鉄骨構造は「支える」だけでなく、「魅せる」要素として設計されていることを感じることができる施設となります。 また、外装の西陣織がまるで建物をまとうドレスのようになっています。これは膜構造といい、テントやドームなどにも用いられる建築手法です。軽量かつ耐震性に優れ、安全性の高い構造となります。西陣織は今回、ポリエステルと融合させることで、布でありながら高い強度と耐久性、防水性を備えた新素材として活用され、技術面でも挑戦が詰まったパビリオンとなっています。
PASONA NATUREVERSE
PASONA NATUREVERSEとは?
パソナグループが出展するパビリオン「PASONA NATUREVERSE」は、いのちの象徴として古代生物のアンモナイトや巻貝の形状から着想を得た、ユニークな螺旋状建築です。地上2階建て、高さは約17m、延床面積は約2,280㎡。 淡路島で発掘されたアンモナイトや巻貝の実物を3Dスキャンし、その自然な形状を建築に落とし込みました。 また、再生医療の先端を象徴する展示として、iPS細胞から作られた「iPS心臓」が実際に鼓動する姿を見られる展示がされています。この監修には、大阪大学名誉教授である澤芳樹氏が参画しており、科学と建築、生命と構造をつなぐ空間としても注目されています。
生命の連続性や進化を表現
大規模でありながら、曲面を活かした滑らかな立体造形が特徴のパビリオン。 設計を手がけたのは、一級建築士事務所「the design labo」の板坂諭さんです。「心臓(いのち)の螺旋〜アンモナイトからiPS心臓まで〜」というテーマのもと、単に自然物を模すのではなく、生命の連続性や進化を建築で表現しています。
鉄骨で動きを生む
PASONA NATUREVERSEでは、外観のインパクトに加えて、内部の動線にも独自の工夫が施されています。来場者は、螺旋を描くようにパビリオン内を回遊し、まるで渦の中心に吸い込まれるような没入体験を味わうことができます。 この流れるような空間を支えているのが、精密に設計・施工された鉄骨フレームです。目には見えない内部にも、数多くの曲面フレームが組み込まれており、全体の曲率や重心バランスは緻密に計算されています。 現場では、クレーンを使って鉄骨を一本ずつ丁寧につり上げ、組み上げていきました。 また、構造の軽量化を実現するために膜構造やトラス構造が多用されており、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やQRコードによる部材管理といった最新のデジタル技術も積極的に取り入れられています。これにより、効率的かつ正確な施工や移築が可能になりました。 こうして組み上げられた鉄骨構造は、単に「支える骨組み」ではなく、空間に動きや流れを生み出す設計要素として機能しています。
ハンガリーパビリオン
ハンガリーパビリオンとは?
ハンガリー館は、ハンガリー政府による公式出展パビリオンで、「自然と人間の調和」をテーマにした展示が行われています。 建物は地上3階建てで、高さは約16.9m、延べ面積は約2500m2。曲線的な外装と直線的な構造体が組み合わされたダイナミックなデザインが特徴です。内部の展示エリアは民族音楽を中心とした、ハンガリーの魅力を多角的に伝えるコンテンツが展開されています。
災害復興の象徴ー福島県産資材の採用
今回のプロジェクトは、ハンガリーの建設会社「Bayer Construct Zrt」とハンガリーの建築デザイン事務所「ZDA - Zoboki Design & Architecture 」、「株式会社綜企画設計」、「株式会社橋本組」による国際協働プロジェクトです。 このパビリオンには、日本の復興を象徴する福島県産の建築資材を採用するなど、希望へのメッセージも込められています。
鉄骨製造による柔軟な設計
ハンガリーパビリオンの構造は鉄骨造を主体としており、トラス構造やドーム構造、アーチ構造など、複数の形態を巧みに組み合わせることで、広い展示空間とダイナミックな外観を実現しています。曲線的な外装と直線的な構造体が融合することで、内部に多彩な動線と視覚的な変化を生み出しています。 また、スパンの大きな空間を支えるため、鉄骨には高い強度と精度が求められ、接合部の構造や施工手順にも高度な技術が導入されています。 設計はハンガリーの建築デザイン事務所「ZDA - Zoboki Design & Architecture 」によるもので、海外の建築基準をベースに構想されています。そのため、日本国内での施工においては、耐震性や建築基準法への適合を含む調整が必要となり、高度な対応力が求められるプロジェクトとなりました。
まとめ
西陣織パビリオン、PASONA NATUREVERSE、ハンガリー館。いずれも鉄骨構造を「支えるだけでなく、魅せる」要素としても活かしている点で共通しています。 今回紹介した3つのパビリオンには、鉄骨構造が"見せるデザイン"として露出しているものもあれば、外からは見えなくとも内部空間の魅力を支える"隠れた主役"として活かされているものもあります。 伝統工芸、環境素材、国際展示という異なる切り口でありながら、それぞれの建築には高度な設計や施工技術とメッセージ性が込められています。構造と意匠の融合に注目することで、万博はより豊かな学びと感動をもたらしてくれるでしょう。
株式会社影山鉄工所では、鉄骨製作において「安心・安全・信頼」を基盤とした高品質な技術提供を行っており、2021年10月にはHグレードに昇格しました。免震構造の建物の実績もあり、構造物に関わる企業の皆様にとって、信頼できるパートナーとなれるよう日々技術力を高めています。 鉄骨製作をご検討の際は、ぜひ影山鉄工所までご相談ください。
【参考文献】
飯田GHDの「西陣織パビリオン」は万博に咲く花、曲面だらけの鉄骨フレームと膜材 | 日経クロステック(xTECH)
飯田グループ×大阪公立大学共同出展館 | EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト
大阪・関西万博 PASONA NATUREVERSE | パソナグループ