目次
自宅で溶接するための環境づくり
仕事として溶接を行う場合は国家資格や民間資格(アーク溶接技能者など)が必要な場合が多いですが、個人で家庭用溶接機を使用して溶接をするのに資格の取得は必須ではありません。しかし、危険が伴う作業のため、正しいやり方や安全対策に関する知識を持って行うことをお勧めします。
溶接をする際に起こりうる危険
溶接光の危険性
溶接光には紫外線や赤外線などの有害な光が含まれているため、長時間直接浴び続けると皮膚の炎症を引き起こしたり、目を痛めたりしてしまいます。
火花の危険性
紙や木屑などの可燃物の他、可燃性液体や可燃性ガスに接触すると着火の可能性が非常に高く危険です。
感電の危険性
汗や母材が濡れている状態で溶接作業を行うと、感電する恐れがあります。
爆発の危険性
可燃性ガス・液体などのある場所では,設備内部の熱・スパークなどによって引火または爆発する可能性があります。
熱や煙の危険性
溶接時に発生する熱や煙には、有害な物質が含まれています。これらの有害な物質を長期間吸うと、様々な病気を引き起こす可能性があります。
| 病名 | 症状 |
| 神経障害:マンガン神経症 |
○高濃度マンガンヒュームを長期間吸入することで発症する慢性疾患で、中枢神経系にマンガンが蓄積して起こる ○パーキンソン病に症状が似ており、震え・運動緩慢・固縮・姿勢反射障害などの運動障害がみられる ○記憶力の低下やイライラ、うつ病などの認知・精神面の障害も生じる ○発症後の完治は難しいことが多く、生活の質を大きく損なうため予防が重要 ○厚労省の統計では、溶接工の労災認定事例が多数報告されている |
| 呼吸器疾患:じん肺、慢性気管支炎など |
○溶接ヒューム中の微細金属粒子は肺の深部に沈着し、長期的に呼吸器疾患を引き起こす ○代表疾患のじん肺(溶接工じん肺)は、粒子の蓄積による炎症・綿維化で肺機能が徐々に低下する ○初期は無症状だが、進行すると咳・痰・息切れが慢性化し、重症化すると呼吸不全に至る ○さらに慢性気管支炎、喘息、肺気腫などのリスクも増加する ○喫煙者は特に、溶接ヒュームとの相乗作用で呼吸器疾患発症リスクが著しく高まる |
| その他の慢性的な影響:発がん性、腎臓・肝臓への影響 |
○溶接ヒュームに含まれる六価クロムやニッケルには発がん性があり、肺がん・鼻腔がんのリスクが指摘されている ○IARC(国際がん研究機関)は溶接ヒュームをグループ1の発がん性物質に分類し、長期間吸引・皮膚に付着することによるがんリスク増加を警告している ○こうした金属成分は、肺以外にも腎臓・肝臓などの臓器に影響を及ぼす可能性がある |
溶接をするための安全対策
溶接を行う際には安全や健康面に注意して、下記のような十分な安全対策をとりましょう。
・可燃物や爆発性物質が周囲にないことを確認
・屋外で行うか、換気設備のあるガレージなど床に引火しにくい場所で行う
・密室は避け、窓を開け換気扇等を用いて部屋の換気を行う
・肌が露出しないよう保護具を身につけて作業を行う
・濡れた手や材料で作業をしない
溶接をするのにかかる初期費用
溶接工具一式を揃える初期費用は、目安として大体5~10万円程度です。溶接機(1~4万円程度)の他にも、保護具(1~4万円程度)や補助工具(4~7.5万円程度)を揃える必要があります。さらに、ランニングコストとしてワイヤやシールドガスなどの消耗品に月5千円〜1万円程度かかることを想定しておくと安心です。
溶接をするのに必須の工具
今回は溶接初心者でも扱いやすい半自動溶接に必要な最低限の工具を紹介します。
必要最低限
溶接作業台
溶接をするための作業台。アースクリップを挟んで電流を流し溶接をします。

溶接機
金属同士を熱で溶かして接合する機械。家庭用コンセント(100V)で使える小型タイプから、業務用の高出力モデルまで様々な種類があり、アーク溶接・半自動溶接・TIG溶接などの溶接の種類や用途によって適した機種を選びます。半自動溶接機はワイヤを自動で送り出し、トーチを母材に当てるだけで連続して溶接できるため作業が安定し比較的扱いやすく、DIYユーザーから人気があります。
アースケーブル
母材や作業台にアースクリップを挟んで電流を流すためのケーブル。先端にはアースクリップがついており、アースクリップにはネジを回して締め付けることで、作業台や母材自体にしっかりと取り付けることができる「万力タイプ」と、手で握って簡単に取り付けことができる「クリップタイプ」の2種類があります。溶接初心者の方は簡単に取り付けができるクリップタイプがおすすめです。

ガスあり・ガスなしでそれぞれ必要な工具が変わる
ガスは、大気中の酸素や窒素などの有害な成分から溶接部を保護します。保護することで溶接欠陥やスパッタが減り溶接跡を綺麗に仕上げることができます。
ガスなし(コストを抑えたい時)
溶接後の見た目にこだわりのない方は、予算を抑えることができ、屋外でも手軽に作業ができるノンガス方式がおすすめです。
溶接棒
被覆アーク溶接などで使われる接合の媒体となる部品。一見細い金属の棒ですが、鋼でできた心線にフラックスと呼ばれる被覆剤(※2)が塗り固められています。
※2 被覆剤(フラックス):被覆アーク溶接棒の心線の周囲に塗布された様々な原料粉末を指します。

フラックス入りワイヤ
アーク溶接に用いられるコイル状の溶接材料でフラックスが内包されています。ワイヤによってフラックスに含まれる原料や配合比率が異なり、それぞれ特性や断面の形状も様々です。

ガスあり(より綺麗に仕上げたい時)
溶接跡をきれいに仕上げたいなどのこだわりのある方は、ガスありの溶接法がおすすめです。
ガスボンベ
ガス溶接または半自動溶接に使用します。半自動溶接ではシールドガスを使用することで溶接部を保護し、溶接品質の向上や欠陥発生の低減を図ります。母材の素材によって使用するガスが異なるため、適切なガスを選ぶ必要があります。

ガス調整機(レギュレータ)
高圧ガスボンベから供給される非常に高い圧力(数MPa)を作業に適した安全なレベルに下げ、安定供給を実現する装置です。ガスの種類や使用目的によって適した製品が異なるため、適切な調整機を選びましょう。

ソリッドワイヤ
アーク溶接に用いられるコイル状の溶接材料。同質の材料で作られており、日本の多くの現場で使用されている最もメジャーなワイヤです。

溶接保護具
溶接作業時に発生する強い光「溶接光(アーク光)」や「火花」から身を守るために溶接保護具を着用しましょう。
防護服
飛散する火花や紫外線・赤外線などの溶接作業に伴う危険から身を守るために着用します。防護服には上下が分かれたセパレートタイプや、通常の作業着の上から重ねて着用するエプロン、服の隙間から火花が侵入しにくいツナギなど様々な形状があります。さらに、防護服はモダクリル・アラミド・難燃ポリエステルなど様々な素材で作られていますが、燃えにくい「綿100%」の物を推奨します。

溶接面
溶接作業時に発生する有害な光から顔面を保護するために着用する、遮光フィルターが備え付けられた面。手持ち型・かぶり型・自動遮光溶接面など種類が豊富で、作業に適したものを使用する必要があります。手持ち型は片手で溶接面を持つ必要があるため、作業を片手で行わなければなりませんが、比較的金額は安価です。かぶり型は手持ち型と比べて高価ではありますが、両手で作業を行うことができます。そのため、初期費用を抑えたい方は手持ち型、作業のしやすさを重視したい方にはかぶり型を推奨します。
革手袋
溶接作業時に飛散する火花やスパッタ、高温に熱せられた鋼材などを手で直接触って火傷を負ってしまうことを防ぐために着用します。溶けにくく熱が伝わりにくい革製手袋が推奨されています。

足カバー
溶接時に火花やスパッタなどの飛散物から、靴と足首を守るために着用します。革製の他、帆布などの厚手の布・アラミド繊維などの難燃性の素材が含まれたものもあります。

防塵マスク
空気中に浮遊している粉塵やヒュームを口や鼻から吸い込まないようにするための呼吸保護具。使い捨て式・取り換え式・電動ファン付呼吸用があり、短時間や長時間の作業で分けられます。

補助工具
溶接をより行いやすくするために、補助工具を揃えると、作業性が向上します。
マグネット
溶接中に母材を特定の角度でしっかりと固定するための特殊な磁器工具。マグネットを使用することで、両手で自由に作業ができ、溶接の位置決めなどの作業がより簡単で正確に行えます。矢印型溶接マグネット・スクエアホルダー・角度調整が可能なモデル・磁気アースクランプなど、様々なタイプがあります。

グラインダー
研削盤の種類の1つで、研削用の砥石を高速で回転させて、素材の表面を切断・研削・研磨する工作機械。加工中は高速回転による火花や粉じんの飛散、砥石の破損・キックバック(跳ね返り)により怪我をする可能性があります。さらに、厚生労働省が公開している資料では、グラインダーによる死亡事故が報告されています。初めて使用する際には細心の注意を払い、保護具を正しく着用する・安全カバーを装着する・点検や試運転を実施するなどの安全対策を行い、経験者の教えを受けてから作業をすることを推奨します。※注意:刃の取り換えは、資格が必要です。
↓厚生労働省|職場の安全サイト労働災害事例
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/sai/saigai_index.html

バンドソー
帯状のノコギリの歯(ブレード)を回転させて、材料を切断する機械。一般的には大きく分けて①金属や木材の切断に使える卓上タイプ(横型・縦型)②充電式のコードレスで使えるポータブルタイプ③大型で主に工場用の据え置きタイプの3種類があります。
溶接ゲージ
位置合わせ・サイズ・精度など、溶接のさまざまな側面を測定するために使用する道具。一般的に①すみ肉溶接ゲージ②溶接シームゲージ③デジタル溶接ゲージの3種類が最も使用されています。

スコヤ
Lの形で内外の角度が正確な直角になっており、直角の測定や寸法の測定に使用する道具。L型の完全スコヤ(台付スコヤ・平型スコヤ)以外にも、止型スコヤ・プロトラクター・フランジスコヤなど様々な形があります。

ハンマー
溶接作業によって、母材に付着したスラグ(熱で溶けた不純物など)などを、叩いて落とすときに使用します。

溶接用ペンチウエルパー
半自動溶接のトーチ整備に特化したペンチ。一般的なペンチが「掴む・切る」ことに特化しているのに対し、ノズルの掃除やチップ等の取り外し・ワイヤの切断・トーチ内で詰まったり曲がったりしてしまったワイヤを引き出すときなどの溶接機のメンテナンスに必要な機能を集約しています。

ワイヤーブラシ
毛の部分が硬い金属になっているブラシ。母材を擦って掃除したり、溶接後のビード(※3)を磨いたりするときに使用します。
※3 ビード:アーク溶接の作業をしている際に金属がみみず腫れのように盛り上がっている部分のことを指します。盛り上がりがなくても、金属と母材が溶けて素材が変化した部分についてビードと呼ぶこともあります。

DIY溶接におすすめの鉄素材の選び方
鉄を溶接する際には材料選びも重要なポイントです。素材によっては溶接がしにくかったり、強度が脆くなってしまったりしてしまいます。
用途に適した形状を選ぶ
棒材
棒状の鉄。曲げやすくて価格は安価なため、DIY初心者にも使いやすいです。
パイプ材(鋼管)
棒状で中が空洞の鉄。曲げにくいですが、切断や穴あけはしやすいです。
フラットバー(平鋼)
平らで長い鉄の板。曲げやすく、穴あけもしやすいです。
アングル(山形鋼)
断面の形状がL字の棒状の鉄。強度が高いのでテーブルの脚などにも使われます。
チャンネル(薄形鋼)
断面の形状がコの字の棒状の鉄。建材として使われることも多いです。
平板(鋼板)
平らな鉄の板。テーブルの天板として使われることも多いです。
エキスパンドメタル
メッシュ状の鉄の板。溶接は難しいですが、独特の形状のため特徴的な雑貨を製作することができます。
パンチングメタル
穴あけ加工されている鉄の板。溶接は難しいですが、独特の形状のため特徴的な雑貨を製作することができます。
溶接しやすい厚さの鉄を選ぶ
使用する溶接機によって溶接可能な厚さは変わりますが、例えば家庭用の100V電圧の溶接機は、3mmから5mm程の厚さの素材の溶接に適しているとされています。鉄が薄すぎると穴が空いたり(溶け落ち)、母材が過剰に溶けてしまい溶接ビードの両端に溝ができたり(アンダーカット)などの溶接欠陥が起きやすいです。逆に鉄が厚すぎると熱が十分に伝わらず、母材の接合部に十分に溶け込んでいない状態になる(溶込不良)、母材と溶着金属または溶着金属同士が部分的に溶け合わずに隙間が生じてしまう(融合不良)などの溶接欠陥が起きやすいです。
炭素量の少ない鉄を選ぶ
炭素量の多い鉄は硬くて伸びにくい特徴があるため、溶接割れといった欠陥を引き起こす可能性が高いです。そのため、炭素量がおよそ0.3%以下のSS材(※4)や、SM材(※5)などの炭素量が少ない鉄を選ぶと良いでしょう。
※4 SS材:「一般構造用圧延鋼材(Steel Structure)」の略称で、日本工業規格(JIS G 3101)に基づいて定められている炭素鋼材料。強度や加工性、コストのバランスに優れ、建築構造物や機械部品、車両、インフラ資材など幅広い分野で利用されている。
※5 SM材:「溶接構造用圧延鋼材(Steel Marine)」の略称で、船舶用の鋼材として溶接製を高める目的で開発された材料であったことから、SはSteel(鋼)、Mは船舶を意味するMarineを指している。溶接製の高い鋼材で、現在は船舶に限らず社会インフラを支えるパイプライン、発電プラントや産業機械などに使用されている。
工具や材料を購入できる場所
ホームセンター
ホームセンターでは工具や材料の購入が可能です。店舗によっては工具のレンタルができるところもあります。
SUZUKID
影山鉄工所ではSUZUKIDの溶接機や工具を使用しています。SUZUKIDには初心者でも扱いやすい、主要な溶接方法であるアーク溶接・半自動溶接・TIG溶接などの溶接機や消耗品が揃っています。
↓SUZUKID HP
まとめ
このように安全対策を徹底し、まずは必要最低限の工具や材料を揃えて溶接にチャレンジしてみてください。溶接を取り入れることでDIYのクオリティやデザインの幅が広がります。実際に道具を揃える前に、鉄でどんなものが製作できるのか知りたいという方は、まずは溶接体験から始めてみませんか?アイアンプラネットベースオブ沼津では溶接に必要な道具が全て揃っており、工房での体験中は無料でレンタルが可能です。スタッフがしっかりサポートしますので、溶接初心者の方も安心してご来場ください。
↓溶接体験工房アイアンプラネットベースオブ沼津のHPはこちら